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読書備忘録#9_会計の世界史

読書備忘録#9_会計の世界史
田中靖浩二さん

【読もうと思った動機】
簿記をはじめとした会計の勉強を始めても、すぐに忘れてしまうし、そもそも覚えられない。業務で使うことがないってのもある。しかし、診断士で財務会計は必須だし、この科目を攻略しないと診断士合格は難しいと言っていた。なので、まずは会計の歴史を見て、興味をもって、今後の勉強に生かせればいいなと思い、この本を見つけたので、買いました。


【概要】
会計によく出てくる細かい処理ではなく、「そのルールや仕組みが存在することの意味」を知る方が重要だと言っている。確かにその通り。処理は重要だが、意味の方がもっと重要だ。この本は、会計の全体像を、歴史とともに楽しく学べると謳っていて、会計に対する視野を広げることができる。題名にある会計の世界史、というよりは、エンターテイメントでありますね。


●第一部 簿記と会社の誕生 ~3枚の絵画「トビアスと天使」「最後の晩餐」「夜警」~  イタリアからオランダ
■1章 15世紀イタリア 銀行革命
1.絵描きに「トビアスと天使」の注文が殺到した理由
ビアスと天使。この絵は、商売人の孝行息子、無事帰るというストーリー。旅から旅を歩く商人にとって、道中の安全はどれだけ祈っても足りない心配事だった。
15世紀後半くらいの話。公証人というのは、相続など家族の取り決めや商売上の約束などを「記録」として残し、それにお墨付きを与える職業。当時は、記録を残すことはそれほど簡単ではなかった。「紙」が簡単に手に入らなかったから。レオナルドダヴィンチはメモ魔。
当時香辛料に人気があったのは、肉など傷みが早い食品を保存させ、あるいはにおいを消して香りづけするためだった。これらを求めるには、貿易をするしかなく、とてもリスクが大きいものだった。こういう挑戦する人たちをリズカーレと呼び、そういう人たちを助けるべく、イタリアのバンコ(銀行)が、キャッシュレスサービスを提供した。このサービスを利用すれば、キャッシュを持ち歩く必要がなくなる。為替手形のこと。手数料ビジネスで儲けを生んだ。

2.地中海で大活躍したリズカーレとそれを助けるバンコ
バンコは、手数料で相当儲けを得て、各地で支店を持つ大組織へと成長した。このバンコの登場で、イタリア商人はヨーロッパ中を相手に商売ができるようになった。各地で支店を持つということは、為替手形等の記録をほかの支店にも伝える必要がある。支店を超えた、ネットワーク全体として記録をつける必要が出てきた。

3.イタリア黄金期を支えたバンコと簿記
バランスシートは、右の調達から左の運用(投資という活動)へ、左右バランスで読む。この時代、資本は自分(個人)。
15世紀ころ、当時隆盛だった毛織物産業から木綿産業へ移行していった。その際、「紙」の生産も増加した。紙は、ぼろ布を細かく刃物で先、それを腐敗桶に入れて作ったパルプを薄く延ばして作られたため。綿は輸入していたので、自分たちでも作りたいとイタリアの人たちは思い、内陸型製造業が反映していった。それが、新たな商売上の「組織」を誕生させた。単発ではなく、継続的に活動を行う組織だ。個人のスケールではないので、出資者が集まって始めるパートナーシップであり、お金が不足する場合は、バンコから借り入れを行った。

1章まとめ
ハイリスクハイリターンを求めるリズカーレ。彼らを支えるために、バンコがキャッシュレスサービスを提供し、これらがうまく融合して産業が発達した。どんどん、組織の在り方も変わっていった。個人のスケールからパートナーシップへと。それを、紙という産業が支えた。


■2章 15世紀イタリア 簿記革命
1.レオナルドと簿記の父の運命的な出会い
スンマ、神聖比例論を書いた、ルカ先生登場。レオナルドダヴィンチも大きな影響を受ける。彼らが生きた中世は、キリスト教が支配していた「神の時代」。教会の教えは絶対。人間らしさを取り戻す、ルネサンス(再生)があった時代でもある。
商売の繁栄と大規模化。ルネサンスに加え、中世から次の時代へ橋渡しをした要因。個人商店から大組織へ。のちに大規模に儲ける商人たちは教会に並ぶ勢力として少しずつ力をつけていった。その商人たちを助けたのが簿記。

2.処刑を逃れたコジモが支えたルネサンス
コジモディメディチ。「公衆の目を避けて商売せよ」。メディチ家の大先輩の銀行が、国王や貴族の借金踏み倒しにより、破綻した過去がある。楽な融資で儲けようとはせず、地道に儲けるほうが良い。ということで与信管理には相当に力を入れていた。メディチ銀行では、各支店に権限移譲しており、今でいう持ち株会社のような組織体系だった。

3.公証人を頼らず自ら記録をつけ始めた商人たち
いままで、船乗りは基本的にプロジェクトベースで、1回ごとに調達、運用、現金化して解散という無駄の多いやりかた。なので、だんだんと長く商売を続けるようになってくる。家族親族中心の組織から、仲間中心の組織に変わってきた。バランスシートでいえば、右下の出資者が、「家族・親族」から「仲間」へと変化してきたということ。こうなると、裏切り者が現れるようになる。そのため、記録を残すことに関してとても熱心になった。その「自ら記録を残していく」こと、それが「簿記」へとつながってくる。正しい帳簿のつけ方は、ルカ先生のスンマに27ページ、書かれていた。この内容は、商人たちにとってとても頼もしい武器となった。
帳簿を正しくつけるメリットはふたつ。ひとつは、対外的な証拠の役目を果たすこと。取引を記録し保存することで相手に対抗できる。もうひとつは、儲けを明らかにできること。儲けの分配について、トラブルを減らす役割を果たす。

4.簿記革命とメディチ銀行の終わり
簿記は記録の正確性を保証するが、経営の適正性や経営者の詳細までを保証するものではない。メディチ銀行は、結局孫の代で、イギリス王へ融資をし、踏み倒されたことで破綻した。
メディチ:嫉妬は雑草のようなものだ、決して水を与えてはいけない
ダヴィンチ:徳は、生まれると同時に反対側の嫉妬を生む
どこの国や会社でも、落ち目になればなるほど地位にしがみつく輩が増え、嫉妬や足の引っ張り合いが増える。
以降、主戦場はイタリアからスペイン、ポルトガル、オランダへと交代していく。中世から近世へ。

2章まとめ
出資者が親族から仲間へと変化していく中で、裏切りが発生するようになった。儲けの分配が主。なので、記録することがとても重要になり、裏切り者が出た時の対抗になったり、そもそも裏切りが出ないように、儲けを明らかにすることが必要になったきた。ルカ先生のスンマの27ページがとても頼りになる武器となった。
「嫉妬」により、イタリアは他国の後塵を拝すようになった。次の時代へ。


■3章 17世紀オランダ 会社革命
1.神が中心から人間が中心の時代へ
もともと、ローマ数字が使われていたが、非常に面倒。例えば、「777」はローマ数字で「DCCLXXVII」と表記する。四則演算をする際、チョー面倒。なので、使いやすさの面から、アラビア数字が使用されるようになった。これがローマとの訣別のひとつとなった。神の支配していた世界を、自分たちの手へと取り戻す・・・数量革命。簿記もこのうちの一つといえる。五線譜がメロディーというカタチのないものを可視化する技術とすれば、簿記は儲けというつかみどころのないものを可視化する技術。
16世紀のオランダは、カトリック色の強いスペインの支配下にあったが、宗教改革によりプロテスタントが増えていた。この新教徒たちをスペインが弾圧したことで、反発、それが独立戦争へとつながった。勝利した北部7州はネーデルランド連邦共和国として独立宣言をし、このオランダに商人たちがヨーロッパ各地から押し寄せるようになった。

2.レンブラントとオランダの栄光
オランダは、プロテスタントを中心とした商人の国。特にカルヴァン派では、神が与えたもうた職業に励むことが救済への道だとされており、商売に励み儲けることは奨励される行為だった。宗教に対する寛容さは、金儲けを追求する合理的精神の裏返しでもあった。オランダのアムステルダムでは、商人たちと情報が集まることで、多くの取引が行われ、市場ができるようになり、市場ができれば商人と情報が集まる・・・という好循環が生まれた。チューリップバブルもこのころ。珍しい色の球根が人々を熱狂させ、価格調整メカニズムによってバブルが発生。バブルは、珍しい色のチューリップのごとく、新しいテクノロジーが登場した直後に発生することが多いようだ。
世界で初めての株式会社と呼ばれる東インド会社は、オランダで1602年に設立された。

3.オランダで誕生した株式会社とストレンジャー株主
オランダは考えた。いまのように小さな会社が船を出しては沈み、を繰り返していては無駄が多すぎる。もっとカネをかけて安全かつ大砲を備えた強力な船を作り、スペインとポルトガルをやっつけよう。船を往復させるだけではなく、インドに現地拠点を作り、そこから商売を大々的に展開しよう。こうなると、大金が必要で、資金を長期的に調達する必要がある。そのために用意された組織がオランダの東インド会社(VOC)。
船の商売から陸の商売になるにつれ、組織は当座企業から継続企業へと変化していった。VOCは、軍隊を置き貨幣の鋳造までやっていた。もはや国家と呼んでもいいくらい。さておき、長期的に大金を調達する必要がでてきたので、資金調達を「見ず知らずの他人」からも行うようにした。これがストレンジャー株主。バランスシートの右下に、株主が登場するということ。そうなると、経営の仕組みが大きく変わる。「所有と経営が分離」された環境であり、ストレンジャー株主は儲けを望んで投資をする。そんな彼らを満足させるには、事業の儲けをきちんと計算すること、儲けの相当分を出資比率に応じて分配すること、のふたつが必要。
正しい計算と分配はストレンジャー株主から資金を預かる以上、果たさねばならない最低限の責任。儲けの報告(=account for)が会計acountingの語源。
遠洋航海はハイリスクハイリターン。無限責任では事業への出資を募ることが難しいと考えたVOCは、有限責任制度を用意した。出資金以上の負担を求めないということ。有限責任によって出資を集め、所有と経営の分離の体制を作った。それでVOCは人気になったが、さらにそれを転売できる市場があったことも人気に拍車をかけた。いわゆる証券取引所のようなもの。インカムゲインキャピタルゲインのどちらも選ぶことができる。

4.短命に終わったオランダ時代
VOCの成功は、簿記、株式会社、証券取引所によって支えられていた。英蘭戦争によって転落したと考えられているが、次の3つも破綻の要因とされている。ずさんな会計計算や報告:未成熟だった会計制度、高すぎた株主への配当:内部留保の不足と借入体質、不正や盗難に対するチェック機能の甘さ:ガバナンス機能の不足。資金調達には成功したが、運用については成功しなかったということ。現在の会計制度や理論はこの3つを克服するように発展してきたことが分かる。次の3つ。
ずさんな会計計算や報告:財務会計制度の改善と管理会計機能の充実
高すぎた株主への配当:コーポレートファイナンス理論の構築
不正や盗難に対するチェック機能の甘さ:コーポレートガバナンスの整備

3章まとめ
イタリアの次の主役はオランダ。プロテスタントが多く、商売が奨励されていたことが大きな要因のひとつ。人が集まり、情報が集まり、市場が形成されていくという、好循環ができる。今までの航海は非効率で、もっと効率的に航海できないかということで、VOCが設立。国家といえるレベルで活動をしていた。純資産を仲間から、見ず知らずの人から調達する必要が出てきたので、事業の儲けをきちんと計算すること、儲けの相当分を出資比率できちんと分配することが求められた。また、ハイリスクハイリターンなので、有限責任制度も取り入れた。VOCはとても人気だったが、運用については成功せず、これでオランダの時代は終わった。


●第二部 財務会計の歴史 ~3つの発明「蒸気機関車」「蒸気船」「自動車」~  イギリスからアメリ
■4章 19世紀イギリス 利益革命
1.石ころの活用から世界トップへ躍り出たイギリス
16世紀は慢性的な木材不足。政府から制限令が出るほど。そこから、黒いダイヤと呼ばれる、石炭が発見される。しかし、地下水が邪魔で、効率的に石炭を採掘できない。機会が必要ということで、ワットが蒸気機関を開発する。そこから、イギリスの産業革命が始まる。

2.蒸気機関車のはじまりと固定資産
蒸気機関車の登場で、鉄道会社が発足した。もともと、運河会社もあったが、運河に代わる交通機関として、鉄道会社は力を伸ばしていった。この鉄道会社が、財務会計管理会計の歴史を変えた。今までのビジネスとは大きく異なる点・・・それは、開業までの初期投資があまりにもデカいこと。開業は、土地、レール、枕木、車両、駅舎、各種設備といった、固定資産(Fixed Assets)がそろわないと、始めることができない。

3.画家も株主も興奮した鉄道狂時代
鉄道会社の最大の特徴は、固定資産が多いこと。棚卸資産として在庫がほとんど存在せず、固定資産を長期的に利用することで稼ぐビジネスモデル。このような巨大な固定資産を持つ会社は、資金調達の方法を工夫しなくてはならない。日々の運賃収入しかなく、登場したばかりで期待した収入が得られるかどうか、わからない。このような状況で、借入金に頼るのは危険。ということで、借入に頼りすぎることなく、株主によって、資金を調達しなさいというお達しがあった。
鉄道会社にとっても毎年儲けを出すのは簡単ではない。特に開業して間もなくの時期は、投資がかさむためなかなか儲けが出にくい。ルール違反は糾弾される。だったら、新しいルールを作ってしまえばいいんじゃね?ということで、ここで、「減価償却」という新ルールを採用した

4.19世紀の鉄道会社からはじまった「利益」
鉄道会社から一般化した減価償却
鉄道会社の場合、あまりにも固定資産への投資が大きいため、この支出を家計簿的に処理をしてしまうと、投資した期は赤字になる。反対に、投資がない期は黒字になる。これだと、いつの時期に株主だったかによって、不公平が生じる。これでは具合が悪い。もっと、儲けを「平準化」して、安定的に配当できる方法がないか?を模索した。その結果が、減価償却。支出を全額「支出した期」に負担させるのではなく、そこから数年をかけて「費用」として負担させるという考え方。これによって支出が平準化され、巨額の固定資産投資をしても「儲け=利益」が出やすくなる。この減価償却によって、「設備投資をしても株主に配当ができる」ようになった。鉄道会社はこのように理論づけし、「機関車は長期的に使用するものだから、長期的に費用計上するのが合理的である」という理屈をこしらえた。
この減価償却の誕生は、会計の歴史の中で重要なターニングポイントだったと考えられる。なぜなら、会計上の儲けは収支から離れ、「利益」というカタチで計算されるようになったため。もともと、「現金主義会計」である「収入ー支出=収支」だったものが、儲けの計算が「発生主義会計」である「収益ー費用=利益」という進化を遂げた、ということ。
大きな流れは次の通り
産業革命による固定資産の増加→減価償却の登場→利益計算の登場
収入・支出から離れ、いかに業績を適切に表現する「収益・費用」の計算を行うか、これが企業会計の進化の歴史。これが引当金工事進行基準などの考えに展開されていく。
こうして、決算書が「自分のため」から「株主のため」というようにどんどん進化していった。

4章まとめ
産業革命から、固定資産を長期的に使用することで利益を生むビジネスをする鉄道会社が生まれた。そのビジネスは、投資額がとても大きいため、投資の有無による期によって、儲けに大きなばらつきがあった。それを平準化するにはどうしたらいいか。投資を、投資した期に全額計上するのではなく、数年にわたって計上すれば、平準化される。そうすれば、儲けも平準化でき、安定的に株主に配当ができる。これが、減価償却。この減価償却は収支の考え方を変えるものだった。儲けが「収支」ではなく、「利益」になったこと。平準化するということは、投資でいえば実際に支払った金額と、帳簿上のなくなった金額が異なるということになる。なので、会計上の儲けは紙の上にのみ、表現されることになった。収入・支出がfactであるなら、収益・費用で計算される利益は一種のfictionといえる。


■5章 20世紀アメリカ 投資家革命
1.西の新大陸へ、海を渡った移民と投資マネー
ヨーロッパからアメリカへ、移民が大量に海を渡った。そのきっかけは、ジャガイモ飢饉。移民が大量にアメリカへ移り、ビジネスや投資マネーもアメリカへ移ることになった。ヨーロッパからアメリカの財務情報が手に入りずらかったので、会計士のチャンスがとても広がっていた。破産処理もしていたが、財務の健康状態をチェックする「監査」も、会計士が担うようになってきた。auditはaudioが語源。経営者が株主に説明をするが、そこで「聞く」(チェックする)という図式からきている。

2.崩壊前夜、ニューヨーク・ラプソディ
アメリカ鉄道会社へ流れ込む投資資金。車両の大型化、快適な車両空間、食事を提供する食堂車など、新しいビジネスがどんどん立ち上がった。
鉄道マネーのカネの流れと、バランスシートをめぐるカネのながれはそっくり。「イギリスのカネがアメリカの鉄道へ」を、右の調達から左の運用へ」と重ねればほぼ流れは同じ。
アメリカの鉄道会社はイギリスと異なり、借入金や社債による調達を好んだ。なので、自己資本比率は低く、常に倒産の危険がつきまとった。そのため、経営分析ブームが起こった。とくに、安全性分析に関心が集まったようだ。
経営指標に人が信用できない名残がある。流動比率は、200%以上が望ましいという格言があるが、これは、ウソが混じっていたとしても、200%あれば大丈夫だろう、という人を信用しない時代の名残があるようだ。

3.大悪党ジョー、まさかのSEC初代長官に就任
人々の欲望を飲み込みながら、上がり続ける株式市場。しかし、1929年10月24日の木曜日、暗黒の木曜日を迎え、世界は大恐慌に陥る。(ちなみに、株価が戻ったのは1951年と、22年の歳月を要している。)株価は暴落したが、倉庫の中の食べ物や衣類は、消滅したわけではなく余っている状態・・・。この矛盾をどう解釈し、解決すべきなのか、ケインズは、有効需要をもとにしたマクロ経済学を立ち上げる。この大恐慌を機に、経済、会計、そのほかあらゆる分野の専門家が不況から脱出するための方法を探った。大統領選もその中で行われた。ルーズベルトは、ジョーをSecurities and Exchange Commission:アメリカ証券取引委員会初代長官へと任命した。「泥棒を捕まえるには、泥棒が一番なんだ。」グラス=スティーガル法(預金と投資の間にファイアーフォールを設けること)や、会計制度の改革(株式公開している会社は、厳しい財務報告の体制の義務付けなど)を行った。他にもインサイダー取引の禁止など、公正で透明な証券取引ルールを定めた。これらの結果、「公開企業の会計制度」の根幹は次の3つにまとめることができる。
・経営者はルールに基づいて正しく決算書を作成すること
・正しく作成されたかどうかについては監査を受けること
・決算書を投資家に対してディスクローズすること
証券市場を活発化していくには、初心者がどんどん参入し、安心して株を購入できる仕組みを作ることが必要。そうでないと、新たな株主は増えず、株価が上がらない。なので、投資家の中に、「潜在的な株主」を含めるようにした。パブリック革命である。

4.パブリックとプライベートの大きな分かれ目
株式を公開すれば、所有者は巨額の株式公開益が手に入る。しかし、公開することでパブリックな責任=社会的な責任を負うことになる。キチンとした経営と会計報告が求められる。厳格なルールを適用した決算を四半期ごとに行い、会計士の監査を受け、しっかりとした内部統制の体制まで作らないといけない。公開企業として果たさねばならない義務が厳しくなるにつれ、株式を公開すべきか否かと経営者は考えるようになる。
各社のアニュアルレポート(有価証券報告書)は、EDINET(日本)や、EDGAR(アメリカ)で、無料で見ることができる。
ジョーの活躍によって、アメリカは世界で最も優れた会計基準と監査制度を持つ国として称賛されるようになった。

5章まとめ
ジャガイモ飢饉を発端に、ヨーロッパからアメリカへ人もマネーも移っていった。アメリカの会社をどうやって監査するのか?で、監査がされるようになる。1929年の大恐慌を起点に、マクロ経済学が発表されるなど、回復へ向けて様々方法が検討された。ルーズベルト大統領は、ジョーをSEC初代長官に任命して、公正で透明な証券取引ルールを定めた。パブリック革命ともいえる。これによって、安心な証券市場ができ、アメリカは最も優れた会計基準と監査制度を持つ国として称賛されるようになり、現在に至るといったところ。


■6章 21世紀グローバル 国際革命
1.自動車にのめり込んだ機関車運転士の息子
鉄道→自動車→飛行機と人々の移動手段には劇的な進化があった。それに伴い、ビジネスは飛躍的に発展していった。そのうち、戦争へとつながっていく。圧倒的な軍事力を持つドイツが、イギリスへ攻め込んだ時。ドイツは敗れた。なぜか。レーダーの存在だ。イギリスはレーダを開発、配置し、ドイツ機の来襲をいち早く察知、早めの対応を行ったから。この両国の態度は、「情報の活用」というテーマで捉えることができる。情報を有効な武器とするには、通信技術が必要であり、それが最初に採用されたのはイギリスの鉄道会社であった。それからイギリスは19世紀世界の覇権を手にし始めることになる。

2.海運とITで覇権を握ったイギリスのグローバル戦略
鉄道会社は、脱線や追突といった鉄道事故を避けるために、電信はのどから手が出るほど欲しい技術だった。(ちなみにそれ以前は、「ボール型の信号機」を採用しており、上に上がっていれば進めという合図で、high ballといった。出発進行=さぁ、飲もう!という掛け声のもの)
イギリスは、三角貿易でとても反映した。アフリカから奴隷を、綿花の栽培地として選んだアメリカ南部へ送り込み生産コストを下げ、最終的にイギリスの機械化された工場で綿衣料を完成させる。そして綿衣料や銃をアフリカへ運ぶ。三角貿易体制は、大型蒸気船とそれを活用した海運ネットワークで支えられていた。さらに、通信ネットワークの拡大にも大金を投じ、通信網の整備をおこなった。先のモノに加え、情報の両方を運ぶネットワークを構築した。世界に先駆けて、通信ネットワークを構築したことで、イギリスの懐には莫大な手数料が入るようになった。便利なネットワークを最初に構築したものは儲かる。

3.金融資本市場のグローバル化国際会計基準
ダイムラーベンツ。調達のグローバル化を目指し、ニューヨーク証券取引所への上場を計画した。しかし、会計基準の違いから、「ドイツでは黒字、アメリカでは赤字」という結果になった。グローバル投資が行われる時代には、会計ルールもグローバル化すべきという声が上がる。こうして、会計基準の国際化への取り組みが始まった。国際会計基準は、IFRSが多勢。日本は、日本基準、USギャップ、IFRSの中から選択して決算を行うことになっている。
会計は、その主人公の変化の変遷が重要。イタリアからオランダの東インド会社まで、会計といえばその主人公は自分つまり経営者であった。自らの儲けを明らかにするために存在していた。しかし、イギリスで産業革命が起きた頃から少しずつ変化してきた。ストレンジャー株主の登場。株主のために監査を導入しつつ、しっかりとした財務報告が求められた。続いて、アメリカの大恐慌を発端に投資家保護が掲げられ、ディスクロージャー制度がつくられた。そしてグローバルインベスター(ファンド)が登場すると、投資家に役立つ情報を提供することが会計の目的になっていった。ここにおいて、主人公は自分ではなく、情報を受け取る投資家になっていった。500年の歴史の中で、会計は自分のためから、他人のために行われるよう変化した。
資産評価の、原価か時価にも影響が出てきた。会計の目的を自分たちの利害調整(原価)に置くか、投資家への情報提供(時価)に置くかで、望ましいルールが違ってくる。そして、今後は時価主義の方向。IFRSを決めたイギリスとアメリカはその傾向だから。建物や機械を多く用いる製造業では、それらを原価評価しつつ減価償却を行う。一方の金融業では固定資産が少なく、資産のほとんどは金融資産のため、時価評価の方がなじむ。

4.増えるM&Aキャッシュフロー計算書
出資者は、イタリアの家族や仲間で出資者=経営者だったが、オランダではストレンジャー株主が増え、所有と経営が一致しなくなった。さらに、20世紀になるとグローバルな投資家としてファンドが登場してきた。そしてEBITDAが登場。1年間の儲けのことで、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, & Amortizationで、利息、税金、減価償却費、償却費を控除する前で計算した利益であること。これらの項目は国によって金額の違いが大きいから。EBITDAであれば、その「その会社の本来の儲け」を表現できると考えられ、M&A取引で注目されるようになった。これは、キャッシュに近い利益であるため。M&Aで重視されるのは、各国発生主義会計の複雑怪奇なルールで計算される利益ではなく、「どれだけカネを稼いだか」というキャッシュ。つまりEBITDAの登場は、M&Aの増加に伴うキャッシュへの回帰現象でもあった。

6章まとめ
イギリスは、モノ(海路)と情報(通信網)のネットワークを牛耳ることで、発展していった。グローバルで資金調達するには、会計ルールもグローバル化が必要で、現在IFRSが優勢となっている。過去、家計簿的なキャッシュフローは、発生主義にともない存在が薄れていたが、M&A増加に伴い、キャッシュへの回帰現象も始まった(EBITDA)。


●第二部まとめ
乗り物の変化(船→鉄道→自動車→飛行機)とともに、ビジネスは大きくなり資金調達も巨額になっていった。会計制度にも変革をもたらし、自分のための会計から他人のための会計になっていった。


●第三部 管理会計ファイナンス ~3つの名曲「ディキシー」「聖者の行進」「イエスタデイ」~  アメリ
■7章 19世紀アメリカ 標準革命
1.南北戦争から大陸横断鉄道へ
連結決算は、アメリカの鉄道会社から始まった。大陸横断鉄道が完成して以降、東西南北、アメリカ全土に続々と鉄道が建設されていく。それらの線路はやがて「連結」されていった。標準サイズのレールによって。そのうち、会社そのものを合併する例も出てきた。経営を傾かせた鉄道会社が他社に買収され始めた。鉄道会社そのものがつながるようになると、決算書もつなぐことが考えられるようになり、19世紀末には連結決算が登場した。
鉄道会社は、ダイヤの作成、安全確保、儲けること・・・これらの複雑な管理を行うため、管区を設定した。広いエリアを管区に分けることで、管区ごとの収益性(原価、売上)を明らかにでき、また管区長の仕事と責任を明確にすることができる。分けることで、分かるようになる。ということ。
アメリカ中に鉄道が一斉に広がることで、同時期に同質的な都市が出来上がり、製造業は同質の製品を大量生産する方向へ向かった。製造現場から始まった革新は向上の原価計算の改革を経て、管理会計という新ジャンルを誕生させることになる。他人のために行われていたアカウンティングは、いまいちど自分のために、に引き戻そうというのが管理会計である。

2.大量生産する工場の分業と原価計算
木製の橋が落ちる事故が多発していることに目を付けたアンドリューカーネギー。高品質の鉄橋を作ることで、注文が殺到した。次の課題は、大量生産。アメリカには職人気質の熟練工はほとんどいない。だとすれば、ド素人の職人でも働けるような工場にするしかない。素人でも大量生産ができる工場・・・「分業」を導入。制作作業をいくつかの工程に分け、それに沿って作業者と機械を順番に配置。これはまさに管区の考え方。そして、作業を「標準化」し、属人的な仕事ぶりを可能な限り排除した。(これって、フォードも同じ考えだったはず)
フレデリックテイラーの科学的管理手法。テイラーが注目した労務費は、材料費と並んで大きな製造コストだった。作業の詳細な分析から時間内に終えるべき課題(タスク)を設定し、高い生産性を達成したものには高い賃率を与える「差別的賃金制度」を主張した。あとは、機械などの減価償却費も大きなコストだった。固定費なので、配賦計算が難しい問題である。製造業で重要なのは、「製品1個を作るのにコストがどのくらいかかっているのか?」である。そうでないと、いくらで売っていいのかわからない。外部との取引から一歩進んで、原価計算という内部の製品原価計算するようになった会計の仕組み。外部の記録から内部計算へ。。。この原価計算は会計の歴史にとって大きなターニングポイントとなった。ここから企業会計は、外部報告の財務会計、内部利用の管理会計という2本立てなった。
さて、固定費の配布は、たくさんつくればつくるほどひとつひとつの金額が薄くなるので、たくさん作れば作るほど製品原価が安くなる、、、ということに気づいた経営者はこぞって、大量生産を行った。

3.ライバルをつぶしながら巨大化する企業
ゴールドラッシュで儲けたのは、金を掘り当てた人でなく、金を掘る人々を相手に商売することで成功した人。そのほか、儲けているのは、一呼吸おいて儲ける方法を考えた者。金を掘る人々を相手に商売することや、開拓者が実らせた果実を資本の論理で合法的に強奪したりすること。ここでいう資本の論理とは、バランスシートの右下を握ったヤツが強い、ということ。株を握ればその会社を支配することができるから。
ジョンロックフェラー。石油精製事業から始め、成功後はすぐさま100か所を超える精製所を買収していく。ライバルをつぶす「水平的統合」をまずは行い、上流から下流までを支配しコストを下げる「垂直的統合」を行った。独占的だが、良い面もあった。石油製品の価格を安定させたこと、石油製品の品質を向上させたこと。企業も連結していった
連結はもともと、経営者が内部管理をするためのものだったが、やがては株主/投資家への情報としても大きな意味があると認識され、外部報告にも取り入れられていった。
決算書の世界標準は、「連結バランスシート、連結損益計算書、連結キャッシュフロー計算書」となった。

4.南部から北部へ旅立つコカ・コーラとジャズ
コカ・コーラアメリカのどこでも同じ味のコーラを飲めることを実現するために、各工場のボトリングについて、品質管理が徹底された。正しい原料、正しい手順、正しく保存するなどすべてに標準を定め、工場に徹底させた。鉄鋼のカーネギー、石油のロックフェラーの工場で編み出された「標準品の大量生産」はコカ・コーラによって一層の進化をし、標準作業は業務マニュアルにまとめられた。

7章まとめ
鉄道がアメリカ全土に広がり、線路は連結され、各社の隆盛とともに会社も連結されていった。同質的な都市が同時に発生することになり、大量生産が始まり、原価計算が始まって、自分のための管理会計が始まった。減価償却費を考えると、大量生産した方がコストが安くなる。大量生産には標準化が求められて、業務マニュアルとしてまとめられることになった。
いつでも儲けるのは、資本の論理を知っている人。


■8章 20世紀アメリカ 管理革命
1.シカゴからはじまったジャズと管理会計の100年史
経営において、効率を高める第一歩はコスト削減。テイラーの科学的管理法を会計に応用した標準原価計算を使い始めた。標準の概念が原価計算に持ち込まれたことになる。工場のレベルを超えて、会社全体を効率よく経営しようとする試みが次に始まった。どうすれば、製造/販売の部門間の協力関係を保ちつつ儲けを出すことができるのか?それが、ロックフェラーの寄付によって再開されたシカゴ大学で、ジェームズマッキンゼー教授の、経営に役立つ会計講座の内容であった。管理会計の講座。そこでは、予算管理(Budgetary Control)が教えられていた。「何台売れるかの予測から、何台生産するべきかを計画することで、在庫を適正化し売り損じを防ぐ。この予算によって、販売/生産の部門間の調整が可能になり、トップが現場を統制することができる。予算管理は、会社レベルで利益を扱う。「コストだけでなく利益を見よ、過去ではなく未来を見よ。」
守りの会計・・・義務(株主と債権者に対し決算書を作成報告することで説明責任を果たす)の会計は、財務会計。ルールを守る実直さが求められる。
攻めの会計・・・自由に設計(経営問題を解決するために経営者が自由に組み立てる)ができる会計。自由な発想が求められる。内部向けなので分かりやすさが何より重要。
過去の実績を計算するだけだった財務会計は、将来利益をシミュレーションするまでに進化した。
マッキンゼーは、管理会計において、重要な型を提供した。それは、計画重視の姿勢。従来の会計が扱わなかった未来の数字が取り込まれている。

2.分けることで分かる「管区」由来のセグメント情報
鉄道会社で用いられた管区は、製造業にも採用された。製品別の採算性を明らかにすることができれば、選択と集中がやりやすくなる。製品別に利益を計算する場合に重要なのは、「製品別に売上を分けるのは簡単でも、コストを分けるのは難しい」ということ。コストは直接費(材料費など)のほか、間接費(本社費、減価償却費など)があり、製品別に割り振らねばならない。割り振り計算の重要性は高まる一方。セグメント情報の有用性は、組織における分権化を推進する効果がある。結果を評価する仕組みがあって初めて任せることができるようになる。それぞれの売上、利益を明確にして業績評価することは、組織の分権化を進める条件。
製品、事業別の利益はどれだけ必要なのか? 悩ましい経営問題だった。

3.フランス系デュポンの起こした管理会計革命
数字に強いデュポン。ROIの高め方を示したのはデュポンだった。デュポンの数値管理の基本は、それぞれの事業の収益性を厳しくチェックすることだった。それまで仕切りが曖昧だった社内組織を、「黒色火薬無煙火薬、ダイナマイト、販売」の4つのセグメントに区分し、セグメント情報を構築することでそれぞれの収益性を計算して業績評価を行った。それまでは業績評価は利益率や原価率で行われるのが一般的だったが、デュポンでは「利益を出すために投資をしているのだから、その投資に見合った利益という視点が重要ではないかと考えた。これがROIである。ROIは、利益/資本だが、これは次のように分解できる。利益/売上(利益率)×売上/資本(資本回転率)。つまり、ROIは、利益率か資本回転率のどちらかを上げることで向上できるということ。デュポンは事業別ROIを経営判断の基本に据えた。目先の利益が見込めてもROIが低ければ投資はしない。黒字であってもROIの低い事業からは撤退することもあった。
短期的に儲けるだけなら利益をもとに判断できるが、設備投資が大きくしかも長期的な成長を考えるならROIの方がふさわしいと考えた。
このデュポンが採用したROIの根本には、「小さな投資で大きな利益を」という基本思想があった。
事業ごとの利益や事業ごとの資産を計算するのは簡単ではない。固定費や共通費をどうやって各部門コストに割り振るかは管理会計上の難問である。
1920年には、デュポンは事業部制組織を採用した。

4.クロスオーバーが始まった音楽と会計
デュポンの経営者は、外部の株主から調達した資金を使い、効率よく利益を出す責任を負う。この効率は、ROEで測る。次に経営者はこの資金を各事業へ投資する。各事業部長はこの資金に対して利益を出す責任を負う。この効率は事業別ROIで測られる。ここでは、「株主-経営者」「経営者-事業部長」の権利会計的な委任関係という「二重の委託関係」が生じている。事業部長は、「投資の大きさに見合った利益」を求められる。売上、利益重視の経営は景気が悪くなると低価格競争に陥ることとなる。
現在は、製造業から情報産業へシフトしてきている。その中で、「型」を見直す時期が来ているのかもしれない。

8章まとめ
予算管理。過去だけでなく未来を管理する。革命的だった。
ROI=利益/売上(利益率)×売上/資本(資本回転率)。目先の利益でなく、長期的な成長を考えるならROIを重視することをデュポンは考えた。共通費などを割り振るのは難題だが、デュポンはそれをクリアし、事業部制組織を世界で初めて採用した。
守りの会計・・・義務(株主と債権者に対し決算書を作成報告することで説明責任を果たす)の会計は、財務会計。ルールを守る実直さが求められる。
攻めの会計・・・自由に設計(経営問題を解決するために経営者が自由に組み立てる)ができる会計。自由な発想が求められる。内部向けなので分かりやすさが何より重要。


■9章 21世紀アメリカ 価値革命
1.マイケルジャクソンに学ぶ価値(バリュー)思考
ビートルズ著作権を会社に譲渡したのが不幸の始まり。その会社は上場したので、誰でも株式を購入できるようになり、資本の論理にさらされることになった。会社の資産であれば、会社のバランスシート右下を握ることで、手に入れることができる。
投資を行う場合に、そこへ支払われるコストに注目するか、そこから得られるリターンに注目するか、この違いは会計上、あまりに重要な論点だ。リターンの計算は、将来のことでもあるので、非常に計算が難しい。できたとしても、客観性を示すのは極めて困難。そこで、リターンを重視する新たな分野が登場してきた。それが企業価値を旗印に掲げるファイナンス

2.企業価値とは何か?
資産評価は、原価、時価の二つの考え方がある。会計の歴史は、取得原価にこだわってきた。会計はもともと、お金の動きを記録するものなので、買ったときにいくら支払ったのか、の「事実」に注目する。これに対し時価は、「仮定」のリターンに基づく評価である。そのため、少し敬遠されてきた。
ただ、企業が長期的に活動するようになり、資産が長期的に保有されるようになると、原価評価はときに、現実離れした金額になってしまう。例えば、はるか昔にタダ同然で取得した土地が急騰し、XX億円になっていたとしたら、果たして原価と時価、どちらが正しい評価額なのか?こうなると、時価の方が正しいのでは?という声が強くなる。近年の国際会計では、時価主義が優勢。
産業シフトによって、隠れた資産が増加した。そもそも資産とは何か?という根本的な問題が出てきた。リースの機材は?優秀な人材は?独自ノウハウやネットワークの強みは?これらは原則としてバランスシートには計上されない。情報、サービス、金融業にはあまり向いていない。
会社の買収に関して簡単に歴史を振り返ると、19世紀アメリカではライバルをつぶし、コストを下げるために行われた(石油のロックフェラー)。20世紀前半は、権利を手に入れるためだった(GEのエジソンの発明など)。そして20世紀後半は、隠れ資産を手に入れる買収が増えていった(MJのビートルズの楽曲など)。買う側は、「高額の現金で、少ない資産を買う」ことになるため、バランスシートには差額分の空白が出る。それが「のれん」。資産の部に計上されたのれんは、買収に当たって上乗せされたプレミアムを意味する。では、この買取価格はどのように決まるのか?それは、「期待リターン」。それこそが資産の価値と考える。期待リターンは、将来のキャッシュフローの予想から計算される。すなわち、会社を買うということは、その会社から生まれるキャッシュを買うということ。将来のキャッシュを重視するというこの新しい発想は、伝統的な会計の枠組みを超えるもの。会計上にいう時価主義すら飛び越えて、将来キャッシュフローを複数年にわたり計算するということなのだ。これは、コーポレートファイナンスと呼ばれる(単にファイナンスと呼ぶことが多い)。
ファイナンスの重要な狙いは、「会社の価値」を明らかにすること。会社の価値は、次の2ステップで、理論的に企業価値を計算する。
①会社買収後の将来キャッシュフローを見積もる
②将来キャッシュフローを現在価値に割引計算する
ファイナンスは、これまでの会計の視点にはなかった、「企業価値を上げるためには、将来キャッシュフローを増やすことが必要」という視点を提供してくれた。将来キャッシュフローを増やすために、投資の選択管理、在庫売掛買掛の効率的な管理も必要となり、また現在価値に割引計算を行うための「資本コスト」を下げるためには、資金調達の方法を工夫したり、IR活動の充実などを行う必要がある。時間軸を過去から未来へ移し、数字にあるべき論を持ち込んだファイナンスは会計を一歩前に進める役目を果たした。

3.投資銀行とファンドの活躍を支えたファイナンス
ゴールドマンサックスなどは、バランスシート右側の「お手伝い」から、「所有者」へと立場を変え、企業価値を正しく評価する能力と、それを高めるノウハウによって、株式公開、売却、合併などで収益を上げていった。企業価値が「将来キャッシュフローの合計」と定義されたことで、企業価値の増やし方が明らかになった。例えば、「収益性評価に基づく事業の選別(NPV法、IRR法)」、「割引に用いる資本コストの計算(CAPM、WACC)」「配当・自社株買い政策」など。
IFRSでは「のれん」について償却不要としているが、それは減価償却的な規則的償却を不要としているだけであって、「将来キャッシュフロー」が著しく下落した場合には、減損処理をすることを求めている。つまり、「価値」が下落した場合には、その下落分を一気に減損処理しなさいということで、背景にファイナンス理論があることは明白である。
減損会計は、将来キャッシュフローの見積もりが著しく下落した場合、その額、つまり価値相当額まで評価額を引き下げ、評価損を計上しなければならない。
これまでの簿記や決算書にはなかった「未来」を対象とする管理会計ファイナンスの登場によって、数字の強さはひとつ上のレベルに上がった。それは、帳簿を作る、そして決算書を読む、そんな過去の流れから、ファイナンスの登場によって、未来を描くことができるようになった。

4.うつろいやすい価値を求め、さまよう私たち
「効率」重視が行き過ぎると、縮小均衡(価格競争など)に陥る危険がある。コストを削り、資産を圧縮すれば目先のROIはすぐに上昇する。しかし、それでは長期的な成長は望めない。そのことに気づいた経営者は、ファイナンス理論の助けを借りつつ、「価値」を重視し始めた。ここで注目される企業価値は「将来キャッシュフローの合計」。
思えば、鉄道が完成し大量生産が始まった19世紀後半、カーネギーやロックフェラーらは「規模」を目指した。続いて、企業規模が拡大すると、多角化が始まり、デュポンは「効率」を目指すようになった。そしてビートルズが登場した情報化時代、今度は「価値」が経営のキーワードになった。企業価値志向には、「規模から効率」の段階でいったん縮みがちになった経営を「効率から価値」への転換によって拡大・成長路線に戻そうという意気込みが感じられる。

9章まとめ
企業価値とは、「将来キャッシュフローの合計」のことである。その会社が将来、どれだけのキャッシュを生み出すのか、ということ。ファイナンスの登場で未来を描けるようになり、長期的な成長の計画を立てれるようになった。目指す方向性が明確になったと考えらえる。要は、企業価値を向上させることが経営者としての役目の一つということだろう。
のれんは、買収時に上乗せされたプレミアム。これを上回るキャッシュを創出できると考えたから、プレミアム価格を乗せて買収をしているというわけ。M&Aで重要。


【この本を読んだ感想やまとめ】
会計の歴史と、絵画やミュージックの歴史をうまく合わせ、読み物としてとても面白いものだった。会計の本質的な部分にも触れているので、核と周辺を知ることで理解が深まったような気がする。EBITDAとか、WACCとかも出てきて、今後勉強する際にかなり役立ちそうだと感じた。
ただ、管理会計ファイナンスの明確な違いがよくわからなかった。どちらも将来の数値を扱うものだけど、それ以外になにかあるのかな。ファイナンスは、将来のキャッシュフローとか企業価値のことを扱う分野ってことかな。

【今後活かせること、具体的なアクション】
・解像度が上がったことによる、理解度促進
・簿記や会計の勉強で、自分の言葉で説明ができるようにしやすくなった
・診断士の勉強が頑張れそう

【気に入った文章・言葉を3つ】
・五線譜がメロディーというカタチのないものを可視化する技術とすれば、簿記は儲けというつかみどころのないものを可視化する技術。
・ROI=利益/売上(利益率)×売上/資本(資本回転率)。目先の利益でなく、長期的な成長を考えるならROIを重視
企業価値とは、「将来キャッシュフローの合計」のこと

【こんな人に読んでほしい】
・会計を易しく学びたい人
・会計と歴史ってどういうこと?って思った人
・簿記とか勉強したけど、その背景はよくわからん!という人
減価償却費の生まれた背景とその意味を知りたい人